この本は、これまで天才や偉人に関する分析は、個人に対する分析に偏りすぎていました。その個人がどのような時代背景の中に生まれ、どのような教育を受け、どのような経験を積んだ結果、成功したのか。成功者は努力と個人的資質がすべてを決めるという考えが間違っていることを伝えています。そして、成功者、天才の成功をコミュニティ(社会や共同体)の視点から捉えなおす内容となっています。
それでは、簡単な要約と印象に残った言葉などをまとめていきます
マタイ効果
マタイ効果(マタイこうか、英語: Matthew effect)またはマタイ原理(マタイげんり、英語: Matthew principle)とは、条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれるという現象のことであり、それは科学界以外の様々な分野でも見ることができる。「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に」と要約できる。この概念は名声や地位の問題にも当てはまるが、要約の文字通り経済資本の累積的優位性にも当てはめることができる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
選ばれたのは個人の実力?
ここでは、著者はカナダのアイスホッケー選手やチェコのサッカー選手の例に上げ、解説をしています。ある時著者は、選手の生まれた月の偏りに著者は気がつきます。このことより、10歳の年齢の少年を集めて選抜チームを作る場合、年齢を区切る期日をある日(例:1月1日)に設定すると、ある少年は1月2日に10歳になり、別の少年は12月に10歳になります。思春期前のこの年齢では、12か月の差が身体の発達に大きな違いを生み、身体が大きく、器用な少年を才能ありと見られる傾向にあります。選抜メンバーに選ばれと、より良い指導が受けられ、より強いチームメイトに恵まれ、より多くの実践を積みます。最初のうち、少年の優位点は、優れた資質を持って生まれたことではなく、生まれが少々早かっただけだったが、13-14歳になると、熱心な指導と、人よりも多い練習量のおかげで本当に優れた選手となり、さらに上位チームに入れる可能性が出てきます。
さらにスポーツの分野だけではなく、教育の分野でも同様で、同学年の最初と最後に生まれた子供で差が生まれることもあるようです。また、大学生にも調べると差はあり、幼少期の発育差は、大人になっても解消されずに根強く残るようです。
要するに、年齢を区切る期日のすぐ後に生まれた人は、同じ年齢の子より少しだけ優れた点(スポーツなら人より少しサッカーが上手だった、勉強なら少し計算が早かったなど)があると、その小さな差が好機を招き、少しずつ差が広がってくる。その広がった差が優位な立場になり、さらに次の好機を招くというサイクルができる可能性があるという優位点に恵まれそうですね。
一万時間の法則
「生まれつきの天才」は存在する?
答えはイエス。1月生まれのアイスホッケー選手が、みんなプロになれるわけではない。一部の選手、つまり生まれながらの才能に恵まれたものだけ。成功には才能プラス訓練が必要。しかし、そのような考え方で問題となるのは、心理学者が才能のある人間の経歴を調べれば調べるほど、生まれ持った才能よりも訓練の役割がますます大きく思えること。
複雑な仕事をうまくこなすためには最低限の練習量が必要だという考えは、専門家の調査に繰り返し現れる。それどころか専門家たちは、世界に通用する人間に共通する”魔法の数字”があるという意見で一致している。つまりそれは1万時間である。
一万時間とは途方もなく膨大な量の時間である。10代の後半までに、自分の力で一万時間をクリアすることは、ほぼ無理である。両親の励ましや支えが必要になる。貧しい家庭では難しい。家計を助けるためにアルバイトをしていれば、練習時間が十分に取れないからだ。事実、たいていの人が一万時間に達するためには、特別なプロジェクトに恵まれた場合(代表チームに選ばれるなど)か、並外れた好機に恵まれた場合に限られる。
ここでは、ビル・ゲイツを例に、通っていた学校、生徒の親たちの財力、ソフトウエアに勤めていた生徒の親が人材を探している、パソコンに触れることができる大学に歩いて通える等々のプログラム開発の訓練を積むための、より多くの時間を得られたことが並外れた好機としている。生まれた年もさらに隠された好機であることも説明をしている。
天才の問題点
知能と成功との間には完璧な相関関係があるというにはほど遠い
実践的知能は、誰かに何を言うかを理解し、どのタイミングで言うか、そしてどのように言えば、最大の効果があるかも承知していること。いわゆる物事の進め方。知識のための知識ではない。状況を正しく読み、自分の望みを手に入れるための知能である。
分析的知能はIQで測られている。どこから生まれてくるのかはわかっている。少なくとも一部は遺伝子から。
IQとは、ある程度まで持って生まれた能力だが、実社会で役立つ機知は知識である。習得すべき技術なのだ。そのような態度や技術はどこかで身につけなければならないが、それらが身につくと考えられる場所は家庭である。
ここでは、中産階級の親業のスタイルを共同育成と名付け、中産階級の親は積極的に子どもの才能や考えや技能を育み、評価しようとする
一方で、貧困家庭の親は自然な成長による結果を待つ戦略傾向にある。貧困家庭の親は子供の面倒は見る責任は認めるが、子どもに自由に成長させ、子供自身の発達に任せる
この2つは、どちらが勝っているわけではないと強調している。
貧しい子供はしばしば行儀がよく、泣き言を言わず、時間の使い方に工夫があり、独立心が旺盛だ。だが実際問題、共同育成には大きな優位点がある。予定の詰まった中産階級の子供たちは、多様な体験の機会を次々に与えられる。組織の中でチームワークと対処法を学ぶ。大人と気持ちよく会話する方法や、必要に応じて自分の考えを相手に伝える方法を覚える。
ここでは、IQ195の男を例に詳しく分析を行っている。このことから、うまく世間を渡るためにすべきことがあることを承知し、そのやり方がわからなければならない。そして、それらを大人になるまでに身につけるための助けが必要で、プロスポーツ選手も天才でさえもたった一人で成功した者はいない
まとめ
本書は「チャンスの差」について、「好機」という側面から解明しています。
才能があるかもしれないのに、生まれた月というわずかな違いが、累積するアドバンテージを作り出し、将来の成功から漏れてしまう可能性がある。
才能に加え、天才になるための必要な訓練量も強調されており、その必要時間は「1万時間」とされている。しかし、この長期間にわたってトレーニングが積める機会に恵まれる可能性は若年層になればなるほど低い。
これらの好機に恵まれていても、そのタイミング次第で成功するかどうかが分かれる。例えば、ビルゲイツなどが生まれた年も隠れた好機になり、それよりも早すぎても遅すぎても難しかった。
IQが高くても必ず成功の要因にはならない。周囲の他者の協力を上手に得ることができない限り、どんなに高い能力を備えていても成功はおぼつかないことを示唆している。
その他として、文化的遺産という要素がどのように良い影響や悪い影響を与えているのかを示しています。
興味がある方は、ぜひ本書を購入して読んでいただければ、より深く学ぶことができると思います。自分自身も今までの好機の再確認や環境による影響などを見極め、これからの好機をつかめるようになればいいなと思いました。
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