今回紹介する本は、国立情報学研研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長である新井紀子さんが書かれた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』です。
この本は、「ロボットは東大に入れるのか」と名付けた人工知能プロジェクトを通して、AI(人工知能)は万能ではなく、得意な分野と不得意な分野があります。しかし、人間は、そのAIにできない分野である読解力を基盤とするコミュニケーション能力や理解力を備えているのか?という問題を調査し、その改善策を提言しています。
それでは、要約と印象に残った言葉などを書き出していきたいと思います。
AIはまだ存在しない
AIとは、artifical intelligenceの略で、一般的な和訳は人工知能で、知能を持ったコンピューターという意味で使われています。
しかし、「AIはまだどこにも存在していない」ということ。
基本的にコンピューターがしているのは計算、もっと言えば四則演算である。
つまり、人工知能の目標とは、人間の知的活動を四則演算で表現するか、表現できていると私たち人間が感じる程度に近づけること。
シンギュラリティとは
AIに関連する言葉として、関心を集めているのはシンギュラリティ(singularity)でしょう。
シンギュラリティのもともとの意味は非凡、奇妙、特異性などですが、AI用語では正確にはtechnological singularityという用語が使われ、「技術的特異点」と訳されます。それは、「真の意味でのAI」が、自律的に、つまり人間の力を全く借りずに、自分自身よりも能力の高い「真の意味でのAI」を作り出すことができるようになった地点のことを言う。
著者は「シンギュラリティは来ない」と数学者として断言をしている。
偏差値57.1
著者は「ロボットは東大に入れるのか」と名付けた人工知能プロジェクトを始め、東大に合格するロボットを作りたかったわけではなく、AIにはどこまでのことができるようになって、どうしてもできないことは何かを解明することであった。
MARCHや関関同立に合格圏内に入るレベルまでに成長する
この意味は、AIは労働力として、今後ライバルになる可能性が高く、そのライバルがMARCHや関関同立に合格できるとしたら、いかがでしょうか?
読解力と常識の壁
性格で限定的な語彙からなる文章であれば、論理的な自然言語処理と数式処理の組み合わせでかなりの点数が取れるが、国語と英語は、このふたつの方法では克服できない科目であった。
私たち人間が「単純だ」と思っている行動は、ロボットにとっては単純どころか、非常に複雑。
例えば、冷蔵庫から缶ジュースを取り出すという単純な作業を行うとき、人間はとてつもない量の常識を働かしており、缶ジュースはどこにあるのか、押し入れや靴箱には入っていない、冷蔵庫にあるはずだ。冷蔵庫はどこにあるのか、玄関ではない、台所だ。そのドアはどうすれば開くのか、そもそも缶ジュ-スはどのような物か。冷蔵庫のどこを探せば見つかるか…など、このような複雑なことを一瞬のうちに判断している。
意味を理解しないAI
コンピュータは計算器なので、できることは基本的には四則演算だけ。
意味を理解できる仕組みが入っているわけではなくて、あくまでも「あたかも意味を理解しているようなふり」をしている。
AIが計算機であるということは、AIには計算できないこと、基本的には足し算と掛け算の式に翻訳できないことは処理できないことを意味する
人間の認識や人間が認識している事象の大半を数式に翻訳することができ、しかもそれらが計算可能な式ならば、「真の意味でのAI」が完成する日はとおくはないかもしれない。しかし、それは非常に難しく、数学には表現できることが限られているから。
数学は、人間が認識や、人間が認識している事象を説明する手段として、論理と確率、統計という言葉を獲得してきた、あるいは獲得できたのはその3つの言葉だけだった
数学が発見した、論理・確立・統計にはもう1つ決定的に欠けていることがある。それは「意味」を記述する方法がないということ。
例えば、「私は妻が好きだ」と「私はアイスクリームが好きだ」と本質的な意味の違いも、数学で表現するには非常に高いハードルがある。
論理では攻略できない自然言語処理
自然言語処理の技術を使う自動翻訳や質問応答の分野では、AIに文法などの言葉のルールを覚えさせ、論理的、演繹的な手法で精度を上げようとしたが、何度試みても失敗を繰り返した。
統計と確率なら案外当たる
大量の常識の暗記と簡単な論理推論による質問応答や自動翻訳を実現することに見切りをつけた後、数学に残された別の言葉でこの難題に挑みました。それが、統計と確率です。ただし、統計では論理のような確実な推論は難しい。さらには見たことがない例に対してどう判断するかは予想がつきません。けれども結構当たります。論理も理解もないのに「結構当たる」のです。
人間は「AIにできない仕事」ができるのか?
「残る仕事」の共通点
コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事、介護や畔の草抜きのような柔軟な判断力が求められる肉体労働が多そうです。
つまり、AIに不得意な分野である高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野です。
AIの弱点は、万個教えられてようやく一を学ぶこと、応用が利かないこと、柔軟性がないこと、決められた(限定された)フレーム(枠組み)の中でしか計算処理ができないことなどで、また「意味がわからない」ということ
反対に一を聞いて十を知る能力や応用力、柔軟性、フレームにとらわれない発想力などを備えていれば、AIは恐れることはない
AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか?
そこで、大学生数学基本調査を実施。
6000枚の答案を見ているうちに、学生の基本的な読解力に疑問を持つようになる。
累計全国2万5000人の中高生の基礎的読解力を調査
基礎的読解力を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)を自力で開発。
AIの正解率が80%をこえる「係り受け」
AIの研究が急速に進んでいる「照応」
AIにはまだまだ難しいと考えられている「同義文判定」
AIには全く歯が立たない「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書・数学)」
の6つの分野で構成
AIと差罰化しなければならない「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」で理解できていない生徒が多かった。
表層的な読解ができた方が、後半の課題の正答率は上がります。表層的な読解はできないのに後半の深い読解ができる者はいません。ただし、表層的な読解ができたら、意味の理解に必要な深い読解もできるとは限らないのです。
基本的読解力は人生を左右する
RSTを受験した高校の平均能力値と家庭教師のトライと偏差値netが公表している高校の偏差値との相関があった
基礎読解力が低いと偏差値の高い高校には入れないと解釈ができる
中学校では学年が上がるごとに正答率が上がる傾向があるが、分散も極めて大きい。
様々な正答率の生徒たちが1つのクラスで学んでいるので、結果的にはRSTで測る基礎読解力の上から順に偏差値の高い高校に入学している
何が読解力を決定するのか?
現在のところ、「こうすれば読解力が上がる」とか「このせいで読解力が下がる」といえるような因子は発見されていない
しかし、読解力はいくつになっても養える
AIにできるのは基本的に生産効率を上げることだけで、新しいサービスを生み出したり、問題を解決したりはできない。
AIにはまだ難しい「同義文判定」、AIには不可能と思われる「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の能力を上げることを人間には期待します。そしてその教育方法の確立も求められています。
まとめ
東ロボくんプロジェクトを通して、AIのほぼ確立している得意分野と苦手分野がある
AIの偏差値は今やMARCHや関関同立に合格できるレベルに成長している
AIは計算機であるので、基本的には足し算と掛け算の式に翻訳できないことは処理できない
私たちが触れているAIは、意味を理解できる仕組みが入っているわけではなく、「あたかも意味を理解しているようなふり」をしている
大量の常識の暗記と簡単な論理推論による質問応答や自動翻訳を実現しようとしたが失敗に終わる
その難題を解決する方法が、統計と確率。そして、論理も理解もないのに「結構当たる」
意味を理解しないAIの不得意分野に対して、人間が意味を理解し、柔軟性や発想力を備えているか?
中高生に基礎的読解力を調査すると、AIの不得意分野と同様に理解できていない生徒が多い
読解力を養う方法は発見されていないが、いくつになっても養うことは可能
読解力を向上させる教育を確立させるように提言している
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